治療

閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans;ASO)には種々の治療方法がありますが、大きく内科的治療と外科的治療に分類されます。ASO患者の多くは下肢のみならず、脳・頸動脈、冠動脈などにも動脈硬化を生じており、前述のようにASOを「全身の動脈硬化病変の一部分症」ととらえることがASO治療の基本になります。つまり、併存疾患やリスクファクターを含めた総合的な治療が必要になります。

ASOの治療方針
・下肢の循環障害への対応
・全身の主要臓器(脳、心臓、腎臓)への対応
・動脈硬化のリスクファクターへの対応
 (喫煙、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、運動不足、ストレス など)

内科的治療
ASOの内科的治療には理学療法と薬物療法があります。

理学療法

理学療法は内科的治療の一つで、運動療法や温熱療法などがありますが、主に運動療法が行われます。

《運動療法》
運動療法は、Fontaine II度の間歇性跛行の初期治療に有効で、歩行訓練が最も効率的とされています。間歇性跛行は下肢筋肉の血流障害による疼痛ですが、運動療法により、血流障害は改善され、歩行距離が増加します。血流障害改善のメカニズムは、比較的細い血管で側副血行路が発達し、血流障害が改善するためと考えられています。

側副血行路
血管に閉塞が生じると、閉塞部の中枢と既存の末梢血管が血行路として拡大、成長する。この血管閉塞を代償としてできた血行路を「側副血行路」と呼ぶ。

運動療法のポイント
・トレッドミルでの歩行訓練(3.2km/h)
・週3回、約1時間ずつ3ヵ月以上続ける。
・疼痛発生まで歩行し、疼痛緩和まで休息し、歩行を繰り返す。TransAtrantic Inter-Society Consensus (TASC): J Vasc Surg, 31(suppl 1 Pt2): S77, 2000.

欧米では、運動療法が間歇性跛行治療の第一選択とされていますが、わが国においては、保険で認められている施設は非常に限られているため、実施は極めて非現実的です。監視下運動療法を行うのが難しい場合に、内服薬併用在宅運動療法が間歇性跛行治療の第一選択になり得るとの報告もあります8)。また、運動療法が無効な症例には、血行再建を行うのがEBMに基づいた治療といえます。

8)Patterson RB et al, J Vasc Surg, 25: 312, 1997.

《温熱療法》
温熱療法の代表的なものとして、炭酸泉足浴があります。炭酸泉足浴を行うことにより、皮膚に付着する炭酸ガスが増加し、中枢へ酸素不足の信号が送られることで、血管拡張が促進され、血流量の増加を促します。
また、自律神経系への作用や、ヘモグロビンの酸素解離促進作用も報告されています。
炭酸泉足浴は、安全性が高く、施行も容易ですが、治療効果の持続性はないため、他の治療手段との併用が必要です。

人工炭酸泉足浴療法
人工炭酸泉製造装置によって遊離二酸化炭素濃度を1,000ppm以上にした約37℃の温水で、患部を10〜15分間温浴させる。

薬物療法

ASOに対する薬物療法の目的は、冷感・しびれ感等の症状改善、運動療法の補助療法や血行再建・血管内治療による開存率の向上、全身の血管イベント抑制などが挙げられます。ここでは、わが国で承認されている薬剤について、その概要を示します。

表3:わが国で使用されている内服薬の概要

表4:わが国で使用されている注射薬の概要

外科的治療
ASOの外科的治療には、血管内治療とバイパス術などの外科的手術があります。

血管内治療

血管内治療とは、経皮的に動脈内に、治療用カテーテルを挿入し、血管の狭窄および閉塞部を拡げる治療をいいます。主なものに経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty;PTA)があります。近年では、カテーテルなど医療材料の進歩により、血管内治療成績も向上し、治療法の選択肢も多様化してきています。

血管内治療の種類と適応
1) バルーン拡張術
バルーン付きのカテーテルにより閉塞部分を拡張する。
血管内治療の最も一般的な方法で、特に限局性の狭窄病変に有効である(5年開存率70%)。

2)

ステント留置術
円筒形の金属製ステントを血管に挿入する。
バルーン拡張型(Palmaz)と自己拡張型(Wallstent)などのステントがある(5年開存率85%、再発率10%)。
血管内治療再発例、広範囲閉塞例、石灰化病変、広範囲多発性狭窄、偏心性狭窄性病変、バルーン拡張不十分例、合併症(急性閉塞・内膜剥離・解離など)発現時
3) アテレクトミー(atherectomy)
病変が硬く、バルーンやステントが適さない場合に、突出した血栓内膜部分を削る。
場合により抗血小板薬を併用する。
偏心性の狭窄、バルーンPTA後の残存狭窄、ステント留置後の再狭窄に有効。

PTAは、腸骨動脈領域における動脈病変で、初期成功率、5年開存率とも高く、最も適した治療法です。一方、大腿・膝窩動脈や末梢の動脈病変においては、可動部であるためステントの破綻が非常に多く、血管内治療よりも外科的手術の方が、よい治療成績が示されています。

外科的手術

ASOの手術目的は、「肢機能の回復」と「足肢切断の回避」にありますが、動脈病変の存在が必ず外科的治療の選択につながる訳ではありません。ASO患者の肢虚血重症度と治療目標に、動脈閉塞部位と範囲、併存疾患重症度、再建血管の開存率、生命予後などを加味して、手術選択を慎重に検討する必要があります。

表5:手術選択を検討する要因

ASOの手術には次の3種類があります。

ASOの手術の種類
1) 血栓内膜摘除術(thrombo endarterectomy;TEA)
閉塞部の血管が太く、短い範囲の場合には、血管を切開し、閉塞部の動脈硬化病変(血栓)と肥厚した内膜を取り除く。
2) バイパス術

閉塞部位を迂回するために血管を移植する方法。

血管が完全に閉塞して、カテーテルによる治療が困難な症例に行われる。

代用血管には、ポリエステルやテフロンなどでできた人工血管と、体内の取り除いても支障がない血管を用いる自家代用血管がある。

3) 交感神経切除術
交感神経を切除することで、血管の拡張を促し、血流を改善させる。
症状の改善は一時的なものであるため、TEAやバイパス術での血行再建が困難な症例に使う。

《下肢切断》
下肢の壊死が重症で、内科的治療や外科的治療による血行再建が不可能な場合に、救命を目的として切断が行われます。しかし、切断後は日常生活動作やQOL(quality of life)の低下が著しく、生命予後も悪いことから、早期の適切な治療と管理による下肢切断の回避が重要です。

 
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